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 「大山康晴の晩節」を読んで

 元来、一人ネットでシコシコ将棋を指して上達してきた私は一般の将棋ファンに比べるとかなりプロ棋士の世界に対して関心がない人間です。ネットで棋譜なんかを見たりはしますが毎週とか毎月でたりする将棋雑誌というものもあまり読んだりしない方でしょう。これまでの将棋界の歴史や、タイトル戦の変遷には全く詳しくありませんし、つい最近まで渡辺明竜王の名前すら知りませんでした。しかしこういうHPを作り、情報を配信するにあたって少しそういう事に詳しくなっておいたほうがいいかと思って買った本のうちの一つが、表題にも書いた「大山康晴の晩節」です。

 みなさんはもう当然のように読んでいるんでしょうか?将棋の歴史で最も偉大な実績をもつ大棋士の伝記的な小説というか読み物というか。やっぱり将棋が好きな人間としては非常に興味深いところが多かったですし、たまに盤面がでて指し手の解説があったりするのも楽しいです(その分一般の人にはとっつきにくくなっているのかもしれませんけど)。若くして夭折した天才棋士を描いた「聖の青春」はかなり好きでしたが、この「大山康晴の晩節」もお気に入りの一つになりそうです。

 とにかく大山という人の偉大さ、強さ、考え方が最初から最後まで提示され続けている本でした。勝つべくして勝つ、というのがまさにぴったりの表現だと思います。特に最後の章は感動的で、死ぬ間際まで将棋を指し続けそして結果を残し続けたというのは本当に偉大だと思わされます。それと、おそらく将棋界というものが発展途上だったことから、個性的な棋士や突出した棋士というものが輩出される下地があった時代、いい時代というものを感じることができる本でもあります。これは将棋界に限った事ではないと思いますけど。なのでこの本には主人公の内面を深く掘り下げた「聖の青春」とは逆に、大山康晴を取り巻く人々との関わりあいをメインとして描かれています。特に打倒大山を目指す周りの棋士との描写が面白い。木村名人や升田、加藤、中原、谷川、そして羽生といったビッグネームも出てきますが、一番印象に残ったのは一つの章をまるまる割いて書かれている山田道美さんの描写です(この本を読むまでこの人の存在を知りませんでした。ちょっとはずいですね)。

  浮沈艦大山を打破しようと闘志を燃やし序盤研究をはじめとして将棋に没頭した山田道美。結局この章の最後で彼は志半ばで早くに死んでしまうわけですが、その間に語られる大山との戦い、エピソードが非常におもしろい。大山の盤外戦術をかわすために苦心したり、大山が山田の得意とされている序盤を避けたりといったことがいろんなエピソードと共に語られています。この山田という人は本書の中でも得に特徴的で、人物像が際立って描かれています。たとえば

 堂々たる大家になってからのことだが、私と山田が同じ日に 対局していた。河口四段の相手は中原五段。山田の相手は誰だったか覚えていない。その昼休み、対局者は一つのテーブルで出前を取ったり食事を共にするのだが、その日、中原は焼売かなにかをおかずにしていた。いかにも旨そうなので、「一つくれないかね」と気安く言ったら、すかさず離れた所から山田の叱声が飛んできた。「勝負をしている相手に物をねだるなんて何事だ!」言われて私は恥じ入ったが、すべててがそんな調子だった。

 以上は本書からの抜粋ですが、山田という人の性格、考え方がとてもよくわかるエピソードです。

 私も将棋好きの端くれなので、 たまに将棋雑誌を立ち読みしたりもします。当然タイトル戦などの観戦記にも目を通すわけなんですが、これがまあおもしろくない。なんでこんなにおもしろくないのかなあ、と前から不思議でしたがこの本を見て答えが判った気がします。やっぱり私なんかが知りたいのは「この手が悪手でこの手が好手。ここでこう指せばこちらが勝勢だった」といった手の解説ではなく、上に書いたような勝負をしている人の人間的な魅力を引き出す描写なんだなあ、ということに本書を読んで気付きました。 (2007/06/10)

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